1980年前後―イギリスからスウェーデン、そして北欧に
1980年代には、最初にスウェーデンを経由し、その後デンマーク、フィンランド、ノルウェーなどには、ほぼ同時にポストパンクの波が到達した。
スウェーデンは、はじめは「svartrock」、「depprock」といった特別な呼称で、ゴシック・ロックなどのポストパンク音楽を呼び表した。この具体例として代表的なのが、Brända Barn、TT Reuter、Dansdepartementet、Sator Codexといったバンドや、歌手「Thomas Di Leva」、「Thåström」などである。
そもそもスウェーデンは1970年代後半結成のポストパンクバンドが多く存在し、明らかにイギリスとほぼ連動されていた。そのバンドが、Brända Barn、Kai Martin & Stick、Garbochock、Stadion、Plast、TT Reuter(一部は後のUnderjordiska lyxorkestern)、Cosmic Overdose(後のTwice A Man)、Dom Dummaste、Vacumあたりである。
こうした、明らかに他の地域に比べると早く、イギリスと同様に1970年代末から1980年代的な手つきの音楽をやっていたスウェーデンでは、1980年代に入っても引き続きこの系統の音楽のバンドのデビューが続く。
こういったバンドはかなり列挙できる。Sator Codex、Cortex、All That Jazz、Tredje Mannen、Ståålfågel、Pillisnorks、Commando M Pigg、Camouflage、Skallarna、Modærn Art、Dansdepartementet、Guds Barn、Elegi、Förrädarna、Chatterbox、The Bizarre Orkeztra、Memento Mori、Global Infantilists、Unter den Linden、Abcess Exil、Kommo、Kitchen and the Plastic Spoon、Mystikens Vacuum、Man Klan、Perfekt Alibi、I.S.9、Tolstoys Toy、Kizza Ping、Odd Stories、Hjärnstorm、Hörförståelseといった面々である。
この系統の音楽は、1980年代後半になってもThirteen Moons、Metal Mean Machine、Leather Nun、Blue For Two、Marie & the Wildwood flowersなどが、結成されていく。特に1984年の「Wire Records」の設立以降、国際的に通用するバンドのプッシュに移り、Leather Nunなどが成功していくが、これ以上触れていくと話が脱線するので、本筋に戻る。
もっとも、後世Lars Nylinが、うちの国の代表的な『Bonniers rocklexikon』にすらまともに記述がない、リバイバルのCDもない、と言ってこれらのバンドのコンピレーションアルバムを出したように、正直スウェーデン内でもムーブメントとしてはあったものの、忘れられるくらいにはマイノリティな音楽だったともいえる。
とはいえ、最初に述べたように、1980年代的なUKロックは、イギリス→スウェーデン→その他北欧、という順で広まった。こうして、フィンランドのMusta Paraati、Geisha、Hexenhaus、ノルウェーのFra Lippo Lippi、Garden of Delight(ゴシック・ロック第2波の代表的なバンドとは同名なだけ)など、他の地域にも1980年代からこのような手法の音楽が見られている。
ただし、デンマークの場合は、ADS、Sods、Ballet Mecanique、Beforeなど散発的にバンドがいたものの、ほぼ音源がデモやライブに限られており、スタジオ録音がないという点で、追うすべがほとんどない。このことは逆説的に、他の地域ほど大きいムーブメントにはならなかったとも言える(Boundariesのインタビュー記事によると、デンマークではマイナーコードの音楽は好まれなかったとのこと)。
例えば、1990年代に至っても、デンマークはAlive with Wormsくらいしか記録に残されていない
1980年代後半~2000年代―国際的な成功
第二波ゴシック・ロックの時代にも、例えばフィンランドからはDorian Gray、Russian Love、Two Witches、Dancing Golem、Sad Parade、Varjo、The Shadow Danceらが、スウェーデンからはThe Solar Lodge、Funhouse、The Preachers of Neverland、Catherines Cathedral、Medicine Rain、Sons of Neverland、Malaise(若干遅れて第3波ゴシック・ロックの代表格の地位を築く、あのMalaise)らが、ノルウェーからはThe Morendoesらが出ていく。
特筆すべきがイギリスの「Nightbreed Recordings」などの国際的なレコード会社の活動で、こうしたバンドは北欧地域のみならず、国際的な名声も得たものも多い。
上記のように、第2波ゴシック・ロックの頃から世界に広く発信し続けた結果、第3波ゴシック・ロックは、前述のMalaise以外にも割合知られたバンドが多く出た。フィンランドのThe Candles Burning Blue、Suruaika、Dreamtime、スウェーデンのThe Misled、Imaginary Walls、Dr. Arthur Krause、ノルウェーのElusive(第3波ゴシック・ロックの代表格の地位を築く、あのElusive)などである。
なお、ここで一つ断っておきたい。世紀が変わるくらいの北欧のゴスの好きなロックバンドとして、高頻度で言及されるThe 69 Eyesは、21世紀の北欧におけるゴスの代表的なファッションリーダーであることは事実である。が、正直音楽性をどう聴いてもこの文脈におけるゴシック・ロックではなく、ダーク・ロックなどと称されるゴシック・ロックではないがゴスが好きそうなロック音楽のカテゴリーだと思うので、この程度の言及とする。
2010年代以降―第4波の中で
この時期になると、もうすっかりインターネットが活動基盤となった結果、国境も地域性もだいぶ関係なくなった。
かくして、ようやくデンマーク系のアーティストが各所のインタビュー記事などに登場するようになる。例えば、Melting Walkmen、The City Kill、Chainsaw Eaters、The Foreign Resort、Torch、Metro Cult、Boundaries、Shiny Darkly、Iceage、Lower、Lust for Youthといった1980年代的な暗いロック音楽をやるバンドが、英語記事などにも2010年代以降散見されるようになる。
おそらくこうしたデンマークのバンドの影響元もまた、世界と同様、自国におけるVETOなどの2000年代インディーロックに起因した1980年代的な音楽性のリバイバル、直近のゴス文化とそこで引き継がれてきていた源流の伝統の2つである。そして、追加で意外と大きい要素が、ドイツとスウェーデンという、大きな文化圏2つに隣接していた点と思われる(実際これらの若手バンドはドイツでのライブなどで稼ぎつつ、当面はスウェーデンのロスキレのフェスを目指すことが登竜門となっているようだ)。
こうしたインタビューを掘り進めていくと、デンマーク内にはさらにダーク・ウェーブも含めたゴスシーンだったり、ポストパンクシーンだったりが既に広がっていることがわかる。英語圏に登場したアーティスト経由で名前の挙がる自国のアーティストとして、She Can’t Afford Mascara、Chopper、St. Digue、P601、Gentle Features、Albert Severin、Missvnaries ov Charity、MOTH、Artificial Monuments、Prison、The Woken Trees、Dune Messiah、Less Win、Deadpan Interference、Narcosatánicos、Slytter、Trader、Healerといった面々がある。
同じく、スウェーデンやフィンランドに比べると、デンマークほどではないがゴシック・ロックのムーブメントがあまり見られなかったノルウェーでは、Outer Limit Lotusが時折インタビューを飾る。ただし、彼らにとって自分たちの音楽は個人的な縁故などを経由して得たものであり、あまり一般化できるわけではないようだ。
第4波の中では、同じくノルウェーのLong Nightもたまに名前が挙がる。
また、北欧と言いつつここまで全く名前を挙げてこなかったのだが、アイスランドからは2010年代にKælan Miklaが登場している。
要するに、2010年代以降とは、それまで北欧で主導的な地位を占めていたスウェーデン・フィンランド以外の3国のムーブメントがようやく国際的にも知られるようになったということである。
参考文献
ウェブサイト
- index/goth-worldwide/sweden – goth
- Nordic Countries | Post-Punk and Darkwave from Denmark, Finland, Iceland, Norway and Sweden. – playlist by ZAUBER | Spotify
- The Sound of Danish Post-Punk – playlist by The Sounds of Spotify | Spotify
- PUNK AND POST PUNK IN SCANDINAVIA – Rate Your Music
- PUNK & POST-PUNK IN DENMARK (1978-1984) – Rate Your Music
- PUNK & POST-PUNK IN SWEDEN (1977-1984) – Rate Your Music
- PUNK & POST-PUNK IN NORWAY (1978-1984) – Rate Your Music
- PUNK & POST-PUNK IN FINLAND (1976-1984) – Rate Your Music
- PUNK & POST-PUNK IN ICELAND (1977-1984) – Rate Your Music
- Wintry Nordic Darkwave Visions // An Interview with TORCH – WhiteLight//WhiteHeat
- Interview with Nick Holmquist by Ed Shorrock | Absolution NYC
- Danish post-punk/new wave inspired by Swedish melancholy: Boundaries interviewed – Messed!Up
- Somthing Post-Punk in state of Denmark | An interview with Metrocult — Post-Punk.com
- Post-Punk Reverberations: The Gothic Odyssey of OUTER LIMIT LOTUS – IDIOTEQ.com
- Darklands – Music label – Rate Your Music
- Interview With Cult Finnish Post-Punk Pioneers Musta Paraati — Post-Punk.com
- Kælan Mikla: The Icelandic post-punk trio shining an icy light on their home country | The Lead
- Svensk svartrock ska fram i ljuset | SvD
スウェーデンのLars Nylinが、1980年代の音楽のコンピレーションアルバムを発売する2007年のプレス記事
有料記事だが、実はこの後はアルバムのタイトルが入ってる1~2行があるくらいなので、サブスクリプションする必要性はない - Svensk Postpunk (Ett Svenskt 80-Tal) (2007, CD) – Discogs
上記Lars NylinのコンピレーションアルバムのDiscogsのページ
この記事をベースにした方がいいので、やはり上の記事に課金する必要はない - The Harder They Come: Swedish Post-Punk’s 50 Best
2017年にLars Nylinのコンピレーションアルバムをある程度参考にしつつ、50バンドくらいを見ていった記事