ゴシック・ロック概説

前史

ゴシック・ロックとは、周知の通り1970年代末~1980年代初頭にかけてイギリスで一世を風靡したポストパンクという音楽ジャンルの一分派である。ということで、通常Joy Division、Siouxsie and the Banshees、Bauhausの3バンドが出そろった1980年前後がエポックメイキングとされる。このため、例えばSiouxsie and the Bansheesのボーカルであるスージー・スーがもともとSex Pistolsの親衛隊隊長であったなど、前史にあたるパンクロック全盛期から主に動向が語られることが多い。

しかし、海外のゴス層にとっては周知の事実なのだが、そもそもゴシック・ロックなる語彙は、これ以前から存在していた。つまり、このJoy Division、Siouxsie and the Banshees、Bauhaus、The Cureなどの音楽をいい感じに形容したかった時に、昔いたゴシック・ロックみたいな音楽性のバンドという枕詞を当てはめたことが、そもそもジャンルどころかゴスという文化の命名に至った経緯なのである。

ということで、その概説をしている以下の動画や、各ゴシック・ロック史をまとめた書籍、サイト類から、おおよその素描を描く。

Before Bauhaus: How Goth Became Goth

通常、ゴシック文化を音楽分野に限って語るうえで最大限遡って言及される人物は、1956年に発表した『I Put a Spell on You』が代表曲として知られるブルース歌手、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスである。というか、この『I Put a Spell on You』という楽曲のライブが、まさにゴシック・ロックにおけるパフォーマンスを一番最初に始めた開祖的な扱いをされている。

当初の予定ではその2年前くらいに流行っていた、ジョニー・エース『Pleading My Love』に影響された感じの3拍子のバラードであり、実際1955年末にリリースされた一番最初のバージョンでは普通のラブソングである(実際、後世のニーナ・シモンやCreedence Clearwater Revivalなどはこっちのバージョンで歌っている)。

ところが、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスは1956年にレコード会社を移る。これに伴い、この楽曲を再録音したところ、プロデューサーのアーノルド・マキシンが思いっきり酔わせて歌わせたらしく、ホーキンス自身が後世レコードした時の記憶がないと述べているような、派手に叫ぶような歌唱が特徴的な音源になったのである。

Screaming Jay Hawkins - I Put a Spell on You (Audio)

そのあまりにも元の曲と違う楽曲はチャートにランクインすることはなかったものの、カルト的な人気となってミリオンヒットとなった。また、以後のホーキンスが髑髏や棺桶、骨などを用いたダークなライブパフォーマンスも大変特徴的となった。つまり、なんか暗い世界観の派手なパフォーマンスをする感じのアーティストやバンドのパイオニアとなったのが、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスということらしい。

この後、アメリカ、イギリスのどちらにおいてもホラーな世界観を題材にしたポップス歌手がしばしばみられるようになる。のだがそれらは別に触れたい。

次に言及されるのは、1960年代後半から登場する、ロック史におけるかの有名なThe Doorsである。1967年にリリースされたファーストアルバムである、バンドと同名の『The Doors』において既に特徴的なように、ジム・モリソンの歌唱や、詩的で暗い世界観の歌詞が彼らの持ち味であった。

ということで、1967年10月に、さっそくライブのレビューをした評論家のジョン・スティックニーが、このThe Doorsの『The End』のパフォーマンスを評して、ゴシック・ロックと形容している。このようなジム・モリソンは後世の狭義のゴシック・ロックのボーカルたちの手本となった。Joy Divisionのイアン・カーティス、The Sisters of Mercyのアンドリュー・エルドリッチといった、ジム・モリソン風の歌唱がゴシック・ロックの一つの指標とされていくのである。

この同年には、もう一つゴシック・ロック前史に欠かせない、The Velvet Underground(デビュー時のバンド名問題は置いておく)が登場する。というか、ぶっちゃけこのバンドはロック史において基本的なフォーマットを用意した存在なので、どのジャンルにも欠かせなかったりはする。

アンディ・ウォーホルのプロデュースでおなじみの彼らは、それまでのポップスと比べた場合、あからさまに歌詞が暗かった。また、ボーカル兼ギターのルー・リードのギター奏法は、単調なパターンを独特の響きを持たせて繰り返す特徴的なものである。

All Tomorrow's Parties

一方で、このThe Velvet Undergroundに、デビューアルバムの時にだけいたことで有名なボーカルのニコは、以後もゴシック・ロック史にそこそこの影響を与えていた。つまり、ニコがバンドをあっさり去った後、The Doorsのジム・モリソンに書いてもらった曲などで歌った1968年のアルバム(日本語版Wikipediaはなぜか年を間違えている)『The Marble Index』が重要な存在となる。

ニコは、この時ブロンドヘア至上主義に反旗を翻し、髪を茶に染め、黒服を身にまとったパフォーマンスを行っていた。そして、この時の楽曲に特徴的なのが、ピアノやヴィオラなどを中心とした、かろうじてロックやポップと言えなくもないくらいの、ほぼアンビエントな楽器編成である。さらに、楽曲はプログレの正反対をいくシンプルな構造であり、徐々に後世ゴシック・ロックに踏襲される楽曲フォーマットが確立しつつあった。

また、ハードロックやメタルの領域からも、Iron Butterfly、Black Sabbathなど明らかに世界観や音楽性に影響を与えてそうなバンドもいる。この中で特に言及しておきたいのが、アリス・クーパーである。このアリス・クーパーとは、要するに、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスをさらに進化させたような、自殺ショーや猟奇的なライブパフォーマンスを繰り返した有名人である。

そんなこんなで、1970年代、ついにイギリスがグラムロックの時代に入る。このグラムロックとは、デビット・ボウイに象徴されるように、男女差が希薄でありつつも派手な衣装やメイクといった具合に、まさにTrad Goth層のビジュアル表現の直接的なきっかけとなった。特にデビット・ボウイは、1974年のインタビューで自分のアルバム『Diamond Dogs』をゴシックと形容している。

David Bowie – The Jean Genie (Official Video)
Bang a Gong (Get It On)
Rock And Roll All Nite

音楽性でも、例えば、元はこのグラムロックのバンドであるRoxy Musicにいたブライアン・イーノの1970年代前半の楽曲も、明らかにJoy DivisionやBauhausといった初期のパイオニアたちに影響を与えている。例えば、機械的な小刻みなドラムや、とぎれとぎれのギター、イーノの淡白で鬱々とした歌唱などである。

In Every Dream Home A Heartache
Blank Frank (2004 Digital Remaster)
Third Uncle (2004 Digital Remaster)

さらに、デビット・ボウイとブライアン・イーノがタッグを組んだ1970年代の電子音楽的な要素の入った楽曲群も、ゴシック・ロックにおける電子楽器の使用に影響を与えていなくもない。

David Bowie- The Speed of Life

一方、この傍らでパンクの時代も始まる。その中でも特に、プロトパンク世代の、ニューヨークのSUICIDEが、ギターもドラムも用いず、ドラムマシンやシンセサイザーを用いた暗い世界観の楽曲群を作っていた。こうしたバンドによって、ロックにドラムマシンやシンセサイザーを用いてもいいとする1980年代の流れが作られていく。

Suicide - Frankie Teardrop (Official Audio)

また、自らをサイコビリーと称した、The CrampsのB級ホラー映画めいたパフォーマンスも、アメリカにおけるホラーパンクの皮切りとして知られる。

ということで、イギリスでは、要するに体制批判などオルタナティブな存在であったパンクロックのバンドたちが、一世を風靡してしまう。つまり、ビートルズの時代がもはや牧歌的であったかのようなレベルで、激しい怒りに満ちた音楽表現や、着たい衣服による視覚表現などをしてもよいと思う存在が増えたのである。

こうして、ついに1970年代後半、ゴシック・ロックの最初の世代の時代に移る。

率直に言って、まだ1970年代におけるパンクロックのムーブメントの最後の世代とも言えなくもないのが、1976年結成のSiouxsie and the Bansheesである。確かにスージー・スーのアイラインや黒髪は、エジプトの化粧や電気ショックモチーフであり、パンクロックの文脈である。しかし、もはや音楽性はパンクではなく、ポストパンクの第一世代と言っても過言ではなかった。

Siouxsie And The Banshees - Hong Kong Garden (Official Music Video)

このSiouxsie and the Bansheesらポストパンクの第一世代が一大スターとなっていく。そして、1977年頃にはSiouxsie and the BansheesとWireが一大勢力となっていたり、1978年にSex Pistols解散後にボーカルのジョン・ライドンが結成したPublic Image Ltdが人気になったりと、ポストパンクの時代が始まる。

また、それまでのパンクロックから一転して、政治的表現やDIY精神などは踏襲しつつも、音楽性の何でもありの対象が広がった。グラムロックやディスコ音楽、ドイツのクラウトロックやThe DoorsやThe Velvet Undergroundといった1960年代の音楽性など他の領域に及び、音楽性の革新が図られたのである。

French Film Blurred (2006 Remastered Version)
Mercy (2006 Remastered Version)

かくして、1978年7月に評論家のニック・ケントは、Siouxsie and the Bansheesを評して、The Doorsや初期のThe Velvet Undergroundのようなゴシック・ロック建築家ともいうべき存在と類似点の指摘や比較をできるようになったとしたのである。

つまり、かつてのThe DoorsやThe Velvet Undergroundのようなゴシック・ロックと表現したものと近いので、ゴシック・ロックと呼ぶのがよい、ということである。

一方、このポストパンクのムーブメントは、マンチェスターにも及ぶ。かつての工業都市は公害問題などもあって徐々に衰退しつつあり、閉塞感が生まれていた。そこに1976年に現れたのが、Joy Divisionである。彼らは空虚さやニヒリズムを高らかに歌ったのだ。

Joy Division - Disorder (Official Reimagined Video)
Joy Division - Atmosphere [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

このJoy DivisionやThe Fall、Magazineといったマンチェスターのポストパンクのバンドたちが一世を風靡する。そして、Joy Divisionも、1979年のインタビュー時にインタビュアーにポップの主流と比較すると、ゴシックと呼ばれている。

Definitive Gaze (Remastered)
The Durutti Column - Sketch For A Summer

一方、Siouxsie and the BansheesやWireに感化されて、1978年にはウェストサセックスでThe Cureが結成されている。だが、彼らがこのムーブメントに躍り出てくるのはもう少し後である。

The Cure - Boys Don't Cry

こうして、後にゴシック・ロックの開祖とされるバンドたちが出そろいつつあった。この後ポストパンクはネオ・サイケデリア、ニューウェーブやインディーロック、オルタナティブロックなどの歴史につながっていくが、一旦必要な個所は出そろったので、ここで筆をおく。また、アメリカの同様のムーブメントについては別のページで触れる。

初期のパイオニアたち

その傍らで、1978年にBauhausが結成される。このBauhausの1979年に発表した、『Bela Lugosi’s Dead』は、ダブレゲエから影響されたギター、淡々とした機械的なドラム、そしてやたらと目立つベースと吸血鬼に関する暗い歌詞、とゴシック・ロックの基本要素がついに出そろうのである。

Bela Lugosi's Dead (Official Version)

ということで、1980年、ゴシック・ロックの定義に大きく関わる、Siouxsie and the Banshees、Joy Division、Bauhausの3バンドが出そろった。

Siouxsie And The Banshees - Happy House (Official Music Video)
Siouxsie And The Banshees - Spellbound (Official Music Video)
Isolation (2007 Remaster)
Bauhaus - In The Flat Field

こうして、1980年~1982年の間に、The Danse Society、The Sisters of Mercy、Dead or Alive、Play Dead 、The March Violets、The Lords of the New Churchといった後追いや、パンクバンドからの転向が始まる。この代表格、かつ上記3バンドよりも後世に世界的に思いっきり有名になってしまったのが、前述のThe Cureである。

The Cure - Hanging Garden

ただし、実はこのゴシック・ロック成立において神格化されているバンドたちは、一瞬で消え去っていった。Siouxsie And The Bansheesは1983年を境にゴシック・ロックからは離れていき、Bauhausの実質的な活動歴もほぼこれに近い。Joy Divisionも1980年のイアン・カーティスの自殺を機に、Blue Mondayが世界的なヒットになるかの有名なNew Orderに変わり、The Cureもゴシック・ロックに感化されて日の浅い1982年の『Pornography』を境に分裂してポップス路線に移ってスターダムを駆け上がっていくのである。

New Order - Blue Monday (Official Lyric Video)
The Cure - Let's Go To Bed
The Cure - The Lovecats

とはいえ、この4バンドとその後追いの影響で、ゴシック・ロックの基本が確立する。微細ながらもリズミカルなドラム、主張の強いベースライン、ゆがんでかつ時折メロディックになるギター、といったものである。

Virgin Prunes - Bau-Dachöng (2023 Remaster) (Official Visualiser)

ゴシック・ロックは初期のパイオニアたちが消えていった1982年~1983年の間にも、Sex Gang Children、 Cocteau Twins、The Southern Death Cult、Skeletal Family、Specimen、Gene Loves Jezebel、Alien Sex Fiendといったバンドの結成が相次いでいく。

この近辺にデビューした世代に特徴的なのは、アメリカのデスロックの音楽性との融和である。つまり、上記1980年近辺の世代に比べるとメロディックなリード楽器が導入されたり、ネイティブアメリカン風の新しいビジュアルの要素が追加されたりしているのである。

Sex Gang Children - Sebastiane (1983) - Official Video

また、1982年7月21日、ロンドンにクラブ「Batcave」がオープンした。こうしたクラブにBauhausのピーター・マーフィー、The Cureのロバート・スミス、Siouxsie and the Bansheesのスージー・スーなども訪れた。よって、Bauhausなどがステージ上で行ったゴシックなパフォーマンスを、早い話カリスマ的な歌手と聴き手が双方向的にゴスとはこういうものであるとお互いに共有できたのである。

Batcaveという新しいメッカでデビューし、英語圏全体でゴス層の新しいカリスマとなって行ったのが、SpecimenやAlien Sex Fiendあたりであった。

こうして、NMEことニューミュージカルエクスプレスが反社的なパンクのネガティブさとは異なる芸術的でメディア寄りだったバンドたちを「ポジティブパンク」と1983年に打ち出したように、早い話誇大広告もあってイギリスのみならずアメリカや大陸ヨーロッパ、東側世界や第三世界も含めて、ゴシック・ロックは世界規模になっていった。

なお、このプロモーション上一瞬使われた言葉に過ぎない「ポジティブパンク」という呼称が、日本ではジャンルのアイデンティティ形成につながるが、それは別の話である。

代表的なバンド

  • Alien Sex Fiend
  • Bauhaus
  • The Birthday Party
  • The Cure
  • The Danse Society
  • Dead or Alive
  • Gene Loves Jezebel
  • Joy Division
  • Killing Joke
  • The Lords of the New Church
  • Play Dead
  • Siouxsie And The Banshees
  • Skeletal Family
  • The Southern Death Cult
    • Death Cult
  • Specimen
  • UK Decay

第1波

上記バンドのサウンドに新しい要素を加え、次の世代へのカリスマとなるバンドが現れた。The Sisters of Mercy、The Mission、Fields of The Nephilimの3バンドがその象徴である。

Lucretia My Reflection (12" Version) (New Version for Digital)
Fields of the Nephilim - Moonchild

実はゴシック・ロック第1波はこの世代のみなのか、上記のゴシック・ロックの古典ともいうべきSiouxsie And The Banshees、Joy Division、Bauhaus、The Cureらビッグフォーともいうべき世代も含めるのかは人によって異なる。要するに、ここまで見てきた世代は、ポストパンクであってまだゴシック・ロックに舵を切ったわけではないという定義である。よって、ゴシック・ロック第1波を確固とした定義づけをする存在をする立場からは、The Sisters of Mercy、The Mission、Fields of The Nephilimのような音楽性を第1波のゴシック・ロックとしているようだ。

上記の通り、The Sisters of Mercyの結成は実は1980年である。そして、彼らは1983年にはアメリカツアーを行うほどの人気だった。このThe Sisters of Mercyが、おおよそ1980年代半ばに初期のパイオニアたちが消えると入れ替わるように一度求心性を帯びたのが、第1波の前史となる。

とはいえ、1984年~1985年初頭頃までは、まだ残党ともいうべきバンドが存在していた。

Killing Joke - Love Like Blood (Official Video)

ところが、1985年頃を境に、上記のパイオニアどころか、後進たちも消えていき、実は1980年代半ばとは、The Sisters of Mercyと、あとはBalaam and the Angel、The Rose of Avalanche、Nervous Choirといったあまり歴史に名前を残していないバンドくらいしかいなかった時期である。とはいえ、後世The Sisters of Mercyとともに名をあげるFields of the Nephilimの結成も1984年なので、実は売れないバンドとしては地下水脈にそこそこいたと思われる。

ここに至るまでに黎明期の残党たちも、音楽性を変えてポップス路線に向かっていった。The Cureが脱ゴシックが本格化するのは前述の通りである。Gene Loves JezebelとXmal Deutschlandが合わさった結果誕生したのがAll About Eveであったのだが、このバンドも次第に脱ゴシックする。またBauhausも1985年以降Love and Rocketsとなって行き、これまた音楽性が大きく変わる。

Love and Rockets - So Alive HD

この中で、他ジャンルへの伏線として特筆すべきバンドがいくつかいる。まず、The Southern Death Cultが音楽性を変化させつつThe Cultになって大当たりしたのだが、このThe Cultはメタル路線に次第に向かい、ゴシック・メタル前史の最初の特異点として記載される。

続いて、Dead or Aliveはディスコミュージック調の音楽性になり世界的にヒットしたのだが、特に日本で人気を博したことで、ユーロビートの形成に一役買うこととなる。

Dead Or Alive - You Spin Me Round (Like a Record) (Official Video)
Dead Or Alive - That's The Way (I Like It) (Official Video)
Dead Or Alive - Turn Around and Count 2 Ten (Official Video)
Dead Or Alive - Something in My House

また、Cocteau Twinsはニューウェーブの時代にドリーム・ポップと呼ばれる新トレンドの一翼を担い、シューゲイザーの成立につながっていく。

Cocteau Twins - Heaven Or Las Vegas (Official Video)

このドリーム・ポップを同じく推進し、ゴシック・ロックとレーベル的には同じなのでゴシック・ロックなのかどうか判断を迷う存在として、Dead Can DanceやThis Mortal Coilなどがいる。

というわけで、1985年には、The Sisters of Mercy、The March Violets、Red Lolly Yellow Lolly、The Three Johnsといった、リーズを中心としたドラムマシン系のバンドの一端としてもはや残っているに過ぎなかった。そして、このうちThe Sisters of Mercyの1985年の解散騒動が、この後ゴシック・ロック史においてThe Sisters of Mercyが基軸になる契機となる。

Snake Dance (Extended)
Talk About the Weather

まず、The Sisters of Mercyの一部のメンバーが最終的にThe Missionを結成した。それとは別に、Fields of the Nephilimが最初のアルバム『Dawnrazor』を発表するのが1987年である。さらに同年The Sisters of Mercyも結局再結成して『Floodland』を発表し、The Missionも『God’s Own Medicine』をリリースする。つまり、1987年に、ゴシック・ロック第1波の名盤が出そろい、次世代に続く音楽性が再確立したのである。

This Corrosion (New Version for Digital)

なお、この1985年~1987年であるが、特にゴスにとって冬の時代だったわけではなく、インダストリアルにつながっていくSkinny PuppyやCoil、ダーク・ウェーブにつながっていくDepeche Mode、Clan of Xymoxの名盤が多数あるので、単純にゴシック・ロックではなく周辺領域に拡散していく時期にあたっていただけと思われる。

Depeche Mode - A Question of Lust (Official Video)

とはいえ、1980年代後半にこの3バンドが出そろったことで、第1波→第2波の移行が展開されたと言われている。こうして、この3バンドなどの影響を受け、いわゆる第2波のゴシック・ロックへと移っていく。

代表的なバンド

イギリス

  • All About Eve
  • Fields of The Nephilim
  • Ghost Dance
  • The March Violet
  • The Mission
  • Red Lolly Yellow Lolly
  • The Sisters of Mercy

その他

  • Christian Death
  • Corpus Delicti
  • Jacquy
  • Mephisto Walz
  • Sex Gang Children
  • Xmal Deutschland

第2波

かくして、1980年代後半に浮上したファッションリーダーたちに煽られ、ゴシック・ロックが復活の兆しを見せていった。この新しい世代は、主にThe Sisters of Mercy、The Mission、Fields of The Nephilimなどの影響を受けながら、新たな要素を付け加えていった。

要素としては以下である

  • メロディーは、ギターリフやボーカルがより強まる
  • バックではしばしば女性のボーカルが補われるようになる
  • シンセサイザーが加わる
  • ベースラインはさらに主張が強くなる
  • ドラムマシンの放つビートが重いものとなる
  • 見た目もただの黒服を着ていた前世代に比べると、Romantic Gothとなっていくヴァンパイアなどのより世界観を確立させる方向に向かう

おしなべて言えばなんか主張が強くなってきているのである。

上記の通り1987年に第1波を完成させた3バンドが出そろい、これらが新たなリーダーとなった。加えて、1989年にThe Cureがゴシック・ロック路線にある程度回帰した『Disintegration』をリリースしたことも追い風となった。つまり、ゴス層の中では、ゴシック・ロックに再注目する流れが出て来たのである。

The Cure - Pictures Of You

ただし、それはファンの間であり、周知の通り1980年代後半~1990年代の流行の音楽性からは外れたところにあり、ほとんどアンダーグラウンドで起こっていたことである。

おおよそ、The Sisters of Mercyの『Vision Thing』、Fields of The Nephilimの『Elizium』が出た1990年頃から後進たちが出てきた。

Vision Thing (2018 Remaster)
At The Gates Of Silent Memory

Nosferatu、Rosetta Stone、Garden of Delight、Love Like Bloodなどといったバンドたちが1990年代前半に躍進していく。

Rise (Title Track Of Album)
An Eye For The Main Chance
Ancient God (Dead But Never Gone)

上記4バンドの中では、Rosetta Stoneが比較的正統派な英国ゴシック・ロックであるのに対し、吸血鬼路線のNosferatu、ラヴクラフトやクロウリーなどのオカルティズムを用いたGarden of Delight、Fields of The Nephilimにメタル要素を加えたLove Like Bloodと、多様な世界観が提供されたのである。

しかし、この段階で旧世代の第1波を完成させたリーダーたちは消えていった。The Missionは1990年の『Carved in Sand』で脱ゴシックし、1992年にはFields of The Nephilimも解散。The Sisters of Mercyも『Under the Gun』を境に脱ゴシックしたのがこの1992年である。

一方、旧世代の引退と引き換えに、旧世代および第2波の前半のバンドたちに感化された新しい世代が出て来た。こうして、The Wake、The Merry Thoughts、Dreadfull Shadowsなどの、第3波のあこがれともいうべき新しいファッションリーダーになるバンドが出そろい、次の時代に移っていく。なお、The Wake、The Merry Thoughtsは比較的正統派なThe Sisters of Mercyフォロワーだが、Dreadfull Shadowsはギターリフのみメタルメタルしたハードなものになっている等、ゴシック・ロックのフォーマットは踏襲しつつも、サブの要素として様々な新機軸を取り込み始めるのは、第2波の後期までずっと続いていたようだ。

その他有名どころをいくつか列挙する。

のだが、この時期とてつもなくややこしいことが起こる。ゴシック、ゴスはもう完全に一種のファッション、モードとなり、ゴシック・ロックと無関係なゴシックな音楽ジャンルが複数出そろっていることである。また、1990年代と言えば周知の通り、ディスコに対してレイヴカルチャーが取って代わる。つまり、ゴス層もまた、Nine Inch Nailsやマリリン・マンソンに代表されるインダストリアルやEBM、Paradice Lost、My Dying Bride、Anathema以降のゴシック・メタルを聴くようになる。

さらに、これらの音楽や、Evanescenceに端を発する、ゴス服を着た女性ボーカルのロックやメタルバンドをかなり雑にゴシック・ロックと銘打つような、主にアメリカのレコード会社の旧来のゴス層に未だにしこりを残し続けているプロモーションや、コロンバイン高校銃乱射事件以降のゴス層へのバッシング、インターネットの発達などで、割とややこしいことになって行くのだが、これは別の話である。

とはいえ、1995年前後の第2波の世代交代以降も、イギリス本国でも脈々と第2波が続いていき、ふわっと21世紀まで生き延びることとなった。

代表的なバンド

  • Another Tale
  • Bay Laurel
  • Big Erectric Cat
  • Children on Stun
  • Dreadfull Shadows
  • Dronning Maud Land
  • Funhouse
  • Garden of Delight
  • Ikon
  • Lemon Avenue
  • London After Midnight
  • Love Like Blood
  • Medicine Lain
  • The Merry Thoughts
  • Nosferatu
  • Rosetta Stone
  • The Wake

第3波

ということで、2000年代の第3波に突入する。この第3波の世代に属するバンドは、実はほとんど第2波の1990年代にデビューをしている。だが、おおよそ目立った活躍をし始めるのは2000年代になってからである。ただし、音楽性に第1波や第2波のような目立った変化はなく、インダストリアルなどの影響があるなどを添えられる程度である。

この世代に属するのが、Elusive、Malaise、Dawn of Oblivionといったバンドである。

また、第2波の1990年代前半から活動を続けている、Star Industry、Fields of The Nephilimの部分的な復活といてもよいNFD、Reptyleなどの当時としては古参バンドも引き続きギター主導のゴシック・ロックを続けていた。

しかし、正直に言うと、この時代はこれらのバンドの代表曲を列挙するくらいしかできない。かくして、第2波の頃と同様一般的なゴス層はゴシック・ロックには見向きもしなくなり、一方でゴシック・ロックのファンたちは、古典的なバンドに回帰していき、第4波ともリバイバルともいえる新しい世代に移っていく。

ただし、第4波なのか第3波の延長線上にいるのかよくわからないバンドも多いので、一部ここで触れる。

Grooving In Green - Ninth Circle - Rebirth EP
MERCIFUL NUNS - KARMA INN
The Eden House - Neversea
Soror Dolorosa - Low End [official video clip]
Dreamtime - Radiation Zone
Terminal Gods - Electric Eyes (Official Music Video)

代表的なバンド

  • Cinema Strange
  • The Daughters of Bristol
  • Dawn of Oblivion
  • Diva Destruction
  • Dr. Arthur Kraus
  • Dreamtime
  • The Eden House
  • Elusive
  • Golden Apes
  • Grooving In Green
  • Imaginary Walls
  • Malaise
  • Merciful Nuns
  • The Misled
  • NFD
  • Reptyle
  • Snakedance
  • Solemn Novena
  • Soror dolorosa
  • Star Industry
  • Terminal Gods

第4波?

2000年代後半から2010年代くらいのゴシック・ロックのバンドを、第4波などと公式に定義づけることはまだされていない。というか特に定義のないまま、第4波、第5波というラベル付けが乱立しているのが、ここ15年くらいである。

しかし、端的に特徴を言えば、この世代の行っていることは古典への回帰である。つまり、一番大本のJoy Division、Siouxsie and the Banshees、Bauhaus、The Cureなどの音楽への回帰である。ただし、これらのバンドは、その後のポストパンクなどの発展も取り込んでいき、旧世代と最近の音楽をうまいこと合わせて、新しいゴシック・ロックのファン獲得を目指しているのである。

まず、この辺の経緯は別に追いたいのだが、2000年代初頭にポストパンクの復活の兆候が見られ始めた。つまり、2000年代初頭にオルタナティブやインディーロックに属する一部のメジャーなバンドが以下のような明らかにこのポストパンク的なサウンドの特徴を見せ始めたのである。

  • 1980年代に回帰したかのような、深く怒るようなボーカル
  • ジャングルさせたようなギターリフ
  • 激しいベースライン

これらに属する存在として、The Killers、The Bravery、Yeah Yeah Yeah’s、Interpolなどの、YouTubeでPVが数百万から億越えの再生数を誇るかなりの有名バンドが挙げられる。

The Killers - Mr. Brightside (Official Music Video)
The Bravery - An Honest Mistake (Official Music Video)
Yeah Yeah Yeahs - Maps (Official Music Video)
Interpol - Evil (Official Video)

一方で、確かに、ここまで見て来たとおり2000年代は、ゴス文化のメインストリーム的には、ダーク・エレクトロやシンセポップ、EBMなどの影響された、エレクトロ・ゴスが、インダストリアルやエレクトロ・インダストリアルといったジャンルとともに、ゴス系のクラブでもメインとされていた時期である。しかし、インターネットの発展で、クラブではなくネットサーフィンを通じて、ゴス文化の起源に触れていく若い世代も現れ始めた。

これに、2000年代のゴシック・ロックのバンドは、旧来のゴシック・ロックとあまり変わり映えのしないサウンドであることも作用した。つまり、若い世代も含めて、YouTubeやダウンロード音源で、1980年代~1990年代の開祖的な音楽を、似たような音楽性であることもあって、聴き漁ることができたのである。こうして、徐々にデスロックなども含めて、じわじわとリバイバルが起き始めていったのである。

こうして、この上記のポストパンクに感化された若手の音楽性に、古典ゴシック・ロックを聴き漁っていた若い世代のゴス層が合流した。結果、ゴシック・ロックの新世代が、このポストパンク復権の流れに加わってデビューをし始めた。

その最たる例が、2008年デビューのブラジルのPlastique Noirである。このバンドの音楽的特徴は明らかに古典的なポストパンクやダーク・ウェーブに近しい存在であった。

Plastique Noir - Manifesto (Official Video)

また、この運動の中でアメリカのShe Wants Revengeは、ゴシック・ロックの復権に大いに貢献するパフォーマンスを行っていった(本人たちがゴシック・ロックであるかどうかは議論がある)。例えば、ミュージックビデオの中でゴスの中では古典的な1980年代の映画である『The Hunger』をモチーフするなどである。

She Wants Revenge - Tear You Apart

こうした流れは、2010年代にニューウェーブがSynthwaveとなってリバイバルされたように、昔のジャンルを現代の技術でリブートしたらどうなるかというありきたりな発想であり、そのような1980年代文化のリブートの初期の例こそこのゴシック・ロックの新生代であったともされる。

なお、このSynthwaveの流れにも、ColdcaveやPhosphorなどのゴス層も関わっているが、名前を挙げておくだけにする。

こうした流れを受けて、2010年代になると、世界各国から様々なバンドが出現する、というのが今の動向となっている。2010年代前半からのムーブメントを牽引した存在として代表的なのは、アメリカのDrab Majesty、トルコのShe Past Away(最も結成は2000年代)やイギリスのAngels Of Liberty、Lebanon Hanover、ギリシャのSelofan、フランスでMinuit MachineやHanteをプロデュースするヘレネ・ドゥ・トゥーリ、イタリアのWinter Severity Indexあたりがである。

Drab Majesty - "39 By Design" (Official Video)
She Past Away - Asimilasyon (Official Music Video)
Lebanon Hanover -- Gallowdance [official]
Selofan - Auf Deiner Haut (official video)
Minuit Machine - Contradictions (Official Video)
Hante. - Wasting Time (Official Music Video)
Winter Severity Index - Another Woman

他の2010年代前半デビュー組で有名どころを列挙すると以下となる。

Aeon Sable - Visions - 2014 (official)
RAVEN SAID - Love that black as Coal (Official Video)
ASTARI NITE- GLOOMY WITCH (Official Video)
Crying Vessel "The Third Covenant" (Official Music Video)
Night Nail - FTL (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
IAMTHESHADOW - Unfold (Official Video) - [COLD TRANSMISSION MUSIC]
Kælan Mikla - Hvítir Sandar feat. Alcest

2010年代後半になると、イギリスのKill Shelter、アメリカで今では先輩のDrab Majestyと並び称されるレベルになっているTwin Tribes、ノースバージニアのSonsombre、ドイツのWisborg、ギリシャのHuman、フランスのJE T’AIMEなどが結成されていく。

Kill Shelter - The Necklace ft Agent Side Grinder
Twin Tribes - Shadows (Official Music Video)
Sonsombre "Darker Skies" (Official Music Video)
WISBORG - I Believe In Nothing (Noire Antidote Remix) [Official Music Video]
Human - Gothic Rock - France : Last exit before the crash (Official Video Clip) part 1
JE T'AIME - Elbow Beach

他の2010年代後半デビュー組で有名どころを列挙すると以下となる。

A Cloud Of Ravens "When It Comes" (Official Music Video)
Creux Lies "Portals" (Official Music Video)
Angel's Arcana - The Gates of Paradise
LONG NIGHT - Sorrow returns (official music video)
Tomb of Love - Ceiling Death (Official Video)
The Kentucky Vampires ~ Daughter Of The Morning Star
The Cult Sounds - What Gets Done In the Night (Official Music Video)
Pilgrims of Yearning - La Mar (Official Video)
Rosegarden Funeral Party - Polaroid (Official Music Video)

また、こうした2010年代~2020年代のバンドは、例えばWitchHands、Shadow Assembly、Mary、Black Angelなど、Bandcampなどのネット上を活動の主な舞台としているものもいる。

Shadow Assembly - Plaything (feat. Marselle Hodges) Official Video
MARY - Die Before Death
Black Angel 'Animal' - Gothic Rock

例えば、2020年代デビューのネットを中心にした活動をしているバンドの中では、Darkあたりが割と躍進している。

DARK - FOREVER SUFFER (Official Music Video)

また、こうした流れを受けて、ついにポストパンクに感化されたインディーロックと、この世代のゴシック・ロック・リバイバル的な音楽を合体させたバンドも出てきてしまった。Creux Lies、La Scaltraなどがそれにあたる。

Creux Lies - Blue (Official Video)
LA SCALTRA - THE SPELL

また、クロスオーバー的な音楽性のバンドも複数存在し、例えばラップに感化されたニューメタルと音楽性を合体させたGvllow、グランジと合体させたundertheskin、ダークエレクトロと合体させたTalk To Herなども知られている。

Gvllow - Fell In Love With A Ghost
undertheskin - End This Summer [Official Video]
Talk To Her – ZODIAC [Official Video]

なお、本人たちは全くその気はなさそうなのだが、歌詞が暗い、1980年代のポストパンクにルーツのある2010年代以降の音楽という定義によって、たまにベラルーシのMolchat Domaあたりの旧ソ連圏のゴスではないポストパンク系アーティスト(西側でRussian Doomer Musicと勝手に言われている中には確かにゴシック・ロックもあるのだが)も括られることがある。

Molchat Doma - Sudno (dir. by @blood.doves)

総括すると、この新世代のゴシック・ロックというのは、環境整備の恩恵が大きいと思われる。インターネットの普及などで、昔はクラブやレコード店などのつてで情報を集めるしかなかった状態から、家にいながらいくらでもジャンルの情報を漁れる状態になったのが大きく影響したということである。

ただし、こうした楽曲は、ゴス層に受けたというよりも、ゴスと無関係にこの手の音楽にハマった層にもウケているようで、これらのバンドの中には自分の音楽ジャンルのみをゴシック・ロックとしているに過ぎない存在も多い。

代表的なバンド

  • Aeon Sable
  • Angel’s Arcana
  • Angels Of Liberty
  • Drab Majesty
  • Dryland
  • Giant Waves
  • Hante
  • Human
  • Human Tetris
  • JE T’ AIME
  • KILL SHELTER
  • Lebanon Hanover
  • Long Night
  • Monoplan
  • Minuit Machine
  • Plastique Noir
  • The Quinsy
  • Raven Said
  • The Rope
  • Selofan
  • She Past Away
  • Sonsombre
  • Tomb of Love
  • Twin Tribe
  • Winter Severity Index
  • Wisborg
  • Witch will Die Tomorrow
  • Конец Электроники
  • Облако – Корни
  • Сумеречный Сад

参考文献

書籍

  • Mercer, Mick(1988)『Gothic Rock Black Book』
  • Mercer, Mick(1991)『GOTHIC ROCK: All you ever wanted to know… …but were too gormless to ask.』
  • Mercer, Mick(1997)『Hex Files: The Goth Bible』
  • Mercer, Mick(2002)『21st Century Goth』
  • Mercer, Mick(2009)『Music to Die for: The International Guide to Today’s Extreme Music Scene』
  • Mercer, Mick(2021A)『GOTHIC INTERVIEWS Volume 1』
  • Mercer, Mick(2021B)『GOTHIC INTERVIEWS Volume 2』
  • Thompson, Dave(2003)『The Dark Reign of Gothic Rock: In the Reptile House With the Sisters of Mercy, Bauhaus and the Cure』

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