ダーク・ウェーブ概説

ダーク・ウェーブ(Dark wave/Darkwave)とは、ゴシック・ロックやデスロック以上に、市民権を得ている割になんだかよくわからないカテゴリーである。定義を端的に言うと、1980年代にイギリス発のゴシック・ロックといった、ニューウェーブやポストパンクの音楽に比べると陰気な楽曲群を、1985年頃からドイツでこう呼んだという呼称が、1993年頃からアメリカでプロモーションに使われた結果広まったという、何重ものバイアスを経たものである。

ということで、正直言うと外部に勝手に呼ばれていたを何回か経たが正解で、実は英語圏でも何が対象なのかよくわかっていない。Clan of Xymoxみたいな1980年代の暗いニューウェーブ、ポストパンク的な様式の発展形と、第2波以降のゴシック・ロックにシンセサイザー足した感じのバンドの2系統って正直別ジャンルじゃない?などとゴス層にすら言われている。

Let's Talk About Darkwave.

1970年代末~1980年代―西ドイツという起点―

1980年代とは、音楽的にはニューウェーブの時代である。要するに、パンクなどと打って変わって、以下のようなシンセサイザーなどの電子楽器やらクラシック音楽に属していたような楽器やら民族楽器やらが使われたり、ノリノリのビートだったり、ミュージックビデオを露骨に意識したりしたような楽曲が流行っていた。

Talking Heads - Once in a Lifetime (Official Video)
Pet Shop Boys - West End Girls (Official Video) [HD REMASTERED]
The Human League - Don't You Want Me (Official Music Video)
Falco - Der Kommissar (U.S. Official Video) (VOD)
Culture Club - Karma Chameleon (Official Music Video)

遥か後世、日本で深夜アニメのオープニングに使われた以下などもこの時代の楽曲である(なお、これはまだYouTubeなどで流せる版のPVだったりするのだが)。

Duran Duran - Girls On Film (Official Music Video)

で、このような楽曲の、暗く陰鬱なバージョンが要するにダーク・ウェーブと呼ばれる。正直、ここまでの経緯はゴシック・ロックとほぼ一緒なので、そちらを見てほしい。ただし、ダーク・ウェーブ史において極めて重要なのが、シンセサイザーなどの電子楽器である。

この場合、極めて重要なのが、ゴシック・ロックの記事で軽く触れた、ポストパンクのバンドが、西ドイツのクラウトロックを参照した点である。つまり、Can、Faust、Kraftwerkといったあの辺である。

Krautrock (2006 Digital Remaster)
Radioactivity (2009 Remaster)
Das Model (2009 Remaster)

さらに、イギリスにもこのような楽曲を作る存在が直前に出ていた。ブライアン・イーノなどである。

The Big Ship (2004 Remaster)

そして、1978年リリースのKORG MS-20やRoland CR-78のような当時としては画期的な性能を持ったシンセサイザーやリズムマシンが、それを助長するかのように次々と発売された。

というわけで、ゴシック・ロックの記事で触れたように1980年を境にしたゴシック・ロックの時代が始まる。この中で当初は普通にポストパンクの文法で作られていたが、そのうちドラムマシンを使ったバンドが生き残っていき、The Sister of Mercyで一気にアイコン化するという流れはゴシック・ロックの記事で見てほしい。

それで、ロック方面でこんな暗い世界観のバンドが登場し、世界的にやや受けしたので、一緒にロックではなく同時代の暗い音楽も、セットで各地に輸入された。このニューウェーブと比べて暗い音楽とみなされた同類は、ニューウェーブと比較した場合テンポが遅く、キーが低く、マイナーキーを使った楽曲群であった。

このくくりに入る1980年代初頭のイギリス音楽としては、Soft Cell、Depeche Mode、Cocteau Twins、Anne Clark、In the Nurseryあたりのかなり雑多な存在が当たる。メンツを見ればわかる通り、イギリスでシンセサイザーを使っていたシンセポップやドリームポップなどのうち、歌詞が暗い面々が一緒くたに聴かれたのである(とはいえCocteau Twinsに関してはもともとはゴシック・ロックのバンドであり、レーベルもゴシック・ロックの本拠地の4ADだが)。

Soft Cell - Tainted Love (Official Music Video)
Depeche Mode - People Are People (Remastered)
Cocteau Twins - Carolyn's Fingers (Official Video)
Anne Clark - Our Darkness

ここからが本題なのだが、西ドイツでは当時のイギリス音楽を自分たちなりにアレンジした、ノイエ・ドイチェ・ヴェレというほぼニューウェーブみたいな音楽が流行った(詳細は別の記事で触れる)。さらに、フランスやベルギーあたりでも西ドイツを経由し、コールド・ウェーブと呼ばれるほぼニューウェーブみたいな音楽が流行った(詳細は別の記事で触れる)。

ということで、イギリス発の音楽は大陸ヨーロッパにも同時多発的に瞬く間に広まり、同時代のイギリス音楽のうちゴシック・ロックなどの暗い音楽も同様であった。よって、アメリカのデスロックやホラー・パンク勢とよろしくやっていた英語圏にとどまらず、ゴシック・ロックおよびそれと括られた暗い音楽は非英語圏にも独自の勢力を築いていった。

このため、なぜ1985年頃にもなってイギリス音楽がイギリスと無関係な西ドイツで英語の謎のカテゴリー名を作られたかが、わかるだろう。最近流行りの洋楽に独自のジャンル名を付ける、古今東西多々見られるアレである。

なので、実は1980年代のダーク・ウェーブとは、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ真っ盛りのドイツでゴシック・ロックっぽいことをやっていた人々も多く含んだ。Xmal Deutschland、Mask For、Asmodi Bizarr、II. Invasion、Unlimited Systems、Moloko†、Maerchenbraut、Cyan Revue、Leningrad Sandwich、Stimmen der Stille、Belfegore、Pink Turns Blueといった面々である(ただ、ほぼゴシック・ロックでしかない面々は別の記事で触れる)。

彼らの多くがクラウトロックなどを引き継いでシンセサイザーを用いており、例えばXmal Deutschlandがイギリスの4ADに属してゴシック・ロックのパイオニアたちとよろしくやった結果、イギリスにも逆輸入されるレベルとなった。

この結果起きたことが、ポストパンクのロック音楽に源流を持つゴシック・ロックを、シンセサイザーを用いたニューウェーブ的な音楽の暗いものの文法でやった楽曲が、独自のジャンルとして成立したことである。このくくりに加わったり昔からやっていたのに巻き込まれたりした存在として、フランスのDie Form、イギリスのAttrition、Pink Industry、カナダのPsyche、イタリアのKirlian Camera、ドイツのMalaria!、スイスのThe Vylliesといったアーティストがいた。

Beast of Burden (Redux)
Psyche - Eternal (Official Video)
Eclipse (Version 1988)
Thrash Me (2019 Remaster)

この代表格こそ、オランダのClan of Xymoxである。彼らもまたイギリスの4ADに属してゴシック・ロックのパイオニアたちとよろしくやった。ということで、後世ダーク・ウェーブに対して、あのClan of Xymoxみたいな曲、という枕詞がつくようになった。

ということで、もう一度冒頭のDarkwaveって内部に複数ジャンルがあるような何かよくわからない括りだな……、とゴスにすら困られる経緯を繰り返そう。この時点では、ドイツ人がゴシック・ロックやニューウェーブ的な暗い音楽を全部まとめてダーク・ウェーブと呼んでたにすぎないからである。

1990年代―新大陸への航海の時代―

この後、ダーク・ウェーブは2つの要因によって、ゴシック・ロックなどとは別の何かとしてポストパンクの時代が終わった後も生き延びることとなった。第一が、東西統一などもあったドイツの南部を起点に、アンダーグラウンドでノイエ・ドイチェ・トーテスクンスト(Neue Deutsche Todeskunst)と呼ばれるムーブメントがドイツであったことである。第二に、これらのムーブメントを1993年唐突にアメリカの音楽プロデューサーであるサム・ローゼンタールがハマり、彼のProjekt Recordsと呼ばれるレーベルを中心にした大プロモーション活動が行われた結果、アメリカに定着したことである。

統一後ドイツのアンダーグラウンドシーン

ノイエ・ドイチェ・トーテスクンストとは、とてつもなく雑な理解で言うと、イギリス音楽に右に倣え的な態度に対し、いや俺たちドイツ人なんだから歌詞とかもドイツ語でやれよとやり始めた暗い音楽である、らしい。というか、ゴス系の書籍を参考にした記事にあるくらいの用法もそこまでなさそうな単語なので、正直狭い界隈で通じていたジャーゴンが、他に言い表し方もないので仕方なくネットで使われているだけと思われる(実際ドイツロック史に関する本にはこの単語は全く出てこない)。

ただし、このイギリスで第2波ゴシック・ロックに移行した前後と、アメリカ的な商業ゴスの時代の間くらいに、ドイツで一部のバンドを旗印にした新しいトレンドが生じた、まではおおよそ見解としては一致するので事実とみなし得る。この旗印になったバンドが、Girls Under Glass、Das Ich、Goethes Erben、Relatives Menschseinといった、ノイエ・ドイチェ・ヴェレとは別のムーブメントと区別できるかどうかの境目くらいにいる世代である。

こうした音楽の特徴とは、おおよそ以下である。

  • 電子楽器とクラシック系の楽器、そして若干のバンド楽器の併用
  • ゴシック・ロックにも近い単純なコード進行や単音の多用
  • 単純なパターンの音楽性に対し、やたら詩的なドイツ語の歌詞

運動の中心になったのが、町としてはバイロイト、レーベルとしては「Danse Macabre」、クラブとしては「Etage」といった場所である。こうした潮流に属していたバンドには他にもEndraum、Mental Inquisition、Lore of Asmoday、Silently Downなどが挙げられる。

また、ドイツ人のゴス的には、なぜか名前があがらないがぶっちゃけ明らかにこのムーブメントの一員だろ枠として、メタラーにはそこそこ有名なLacrimosaの名前も出てくる。

このノイエ・ドイチェ・トーテスクンストとされるムーブメントであるが、正直1994年の「Danse Macabre」レーベルの廃業に前後して、一瞬で終息したものである。ただし、肝心なのは、このムーブメントの実態がどうであれ、ぶっちゃけ各動向が関係あったかどうかもどうであれ、こんなノリの暗いバンドがドイツのアンダーグラウンドでこの時期多数見られることである(ただし、歌詞の言語自体は英語もドイツ語も見かける)。

この例として、Deine Lakaien、Love Like Blood、Love Is Colder Than Death、Diary of Dreams、The Eternal Afflict、Wolfsheimといった名前が挙げられる。

Deine Lakaien - Return (Official Video)
End of Flowers (Eof Version)
The Sparrows And The Nightingales

また、この一翼を担ったのが、Project Pitchforkの一派であり、Aurora Sutraなどもこれにあたる。

The Land Of Harm And Appletrees

また、一言で言い表してしまうとイギリスで言うところのDead Can Danseみたいな、ネオフォークやネオクラシカル路線に行くバンドもあった。Silke Bischoff、In My Rosary、Engelsstaub、Impressions of Winterといった面々である。

そして、この動きもまた、大陸ヨーロッパではそこそこ広まった。イタリアのAtaraxia、The Frozen Autumn、フランスのCorpus Delictiなどが当たる。

ここまで動画を見ればわかる通り、音楽の方向性としては、Depeche Modeみたいな1980年代的なシンセポップ、Xmal DeutslandやClan of Xymoxみたいなゴシック・ロック+電子楽器、Dead Can Danseみたいなネオクラシカル、ネオフォークな路線、といったように相変わらずかなり雑多な存在である。

そして、ヨーロッパでは、アンダーグラウンドで進行するシンセサイザーを使った暗い音楽として、細々と以後も続いていくのだが、一旦ここで目立つムーブメントとしてはしぼむ。

アメリカでのプロモーション

しかし、1993年頃からアメリカで、サム・ローゼンタールが宣伝文句としてダーク・ウェーブという単語を用いたことが、全ての始まりとなる。サム・ローゼンタールは、端的に言えばCocteau Twinsのようなドリームポップ路線をダーク・ウェーブとし、アメリカでは以下のような音楽がダーク・ウェーブとしてまず売り出された。

  • とりあえず編成はギターとシンセサイザーが基本
  • 女性ボーカル

上記を見ればわかる通り、いわゆるイーサリアル・ウェーブがここでのダーク・ウェーブである。結果、サム・ローゼンタールのBlack Tape for a Blue Girlや、Switchblade Symphony、Lycia、Love Spirals Downwardsといったグループが、Projekt Recordsなどでダーク・ウェーブとして売り出された。

Switchblade Symphony "Clown" Music Video
Love Spirals Downwards - Idylls - Illusory Me

この流れで新しく誕生したのが、ヨーロッパ側の狭義のゴシック・ロックファンなどから奥歯に物が挟まったような言い方をされる、MetropolisやCleopatraといったレーベルである。

一方、Tess Recordsという別の拠点もアメリカには存在し、This AscensionやFaith and the Muse、Trance to the Sunや、再結成されたClan of Xymoxなどが属していた。

Annwyn, Beneath the Waves

Requiem in White(および後進のMors Syphilitica)、Bleeding Like Mine、The Machine in the Gardenなどが続いていき、明らかにこのジャンルがアメリカで一定の市民権を得た。

Mors Syphilitica - OFFICIAL - My Virgin Widows (from the Feather and Fate CD)

で、ここで話をややこしくするのは、この面々は明らかに独自ジャンルなのだが、ヨーロッパですでに定義づけられ、一定の蓄積があるダーク・ウェーブの音楽として売り出されたということである。しかも、これが例えばゴシック・ロックであれば、Bauhausの『Bela Lugosi’s Dead』みたいな音楽性の楽曲なんだからあの辺の自称ゴシック・ロックなんてダーク・ロックとか呼んでおけばいいだろとかヨーロッパで言えた。のだが、ダーク・ウェーブはそもそもなんとなく海外が勝手にふわっと読んでいた全く定義の無いジャンルだったので、エレクトロっぽくてインダストリアルやEBMほどBPM高くなくて暗い楽曲、以上、でしかなかった。

一方

正直、ここまでゴシック・ロックに括れない楽曲のみを触れてきたのである観点が抜け落ちている。それは、第2波以降のゴシック・ロックもシンセサイザーなどの電子楽器を当然使ったことである。この最大の原因が、1980年代の中でドラムマシンを用いたThe Sisters of Mercyなどの音楽性が生き残り、ファッションリーダーとなっていたからである。

Nosferatu、Rosetta Stoneなどが続いていくことで、第2波、第3波のバンドは明らかにDark waveの一派に括れなくもない。のだが、ゴシック・ロック概説で一通り見てしまったので、そちらを参照してほしい。

結論

ということで、ゴスにすらダーク・ウェーブってぶっちゃけ何?と言われる理由が、これでわかると思う。暗そうなやつが聴いてるエレクトロなゆっくりの曲を適当にダーク・ウェーブって呼び続けたから、である。

2000年代―叙述の基軸を失った時代―

以後、ゴシック・ロックやデスロックがある程度リバイバルをしていた2000年代は、ダーク・ウェーブはほとんど特筆すべきことはないと無視されている時代である。

ヨーロッパ中心主義的なこの時期のダーク・ウェーブ

正直、英語版Wikipediaにはこの時代の記載は全くなく、ドイツ語版Wikipediaにもほとんど中欧のネオフォークやネオクラシカルの話だけで、この時代はミッシングリンクと化しているのである。

ここで出てくるネオフォークとはForseti、:Of the Wand & the Moon:、Hagalaz’ Runedance、Orplidといったアーティストで、要するにいかにもメタルやってますみたいな人たちがヨーロッパの民族楽器っぽいものだけを演奏しているあのジャンルのことである。

一方、ネオクラシカルとは、Arcana、Artesia、Dargaard、Gothica、Les Secrets de Morphée、Ophelia’s Dream beschrittenといったアーティストで、端的に言うと、Dead Can Danseみたいな路線をさらに推し進めて、もう完全にクラシック音楽みたいな音が流れているだけのあのジャンルのことである。

Through The Grey Horizon
Dreams (Reworked 2007)

この辺の路線でこの時代に一番成功したのが、ネオメディーヴァルを掲げたCorvus Coraxと思われる。

Corvus Corax - O Varium Fortune (Live in München 2009)

が、正直言って、アメリカ流もヨーロッパ流も関係ない、日本でメタラーも兼ねている立場として言ってしまう。この人たち、ぶっちゃけダーク・ウェーブよりも、フォークメタルやゴシックメタルの文脈に位置付けられる存在、というか時系列的にはほぼこっちの方が明らかに影響が強い気がする。というか、Elend、Dark Sanctuary、WeltenBrandあたりの仲間というと、メタラーの方があんな感じの楽曲とイメージしやすいのではないだろうか。

Les Mémoires Blessées
The Ghost of New Year's Eve

ということで、ここまで長々と書いてきたが、2000年代のダーク・ウェーブについては、これ本当にダーク・ウェーブ史に含めるのか?という話をゴスにすら延々とされてしまう。正直、概説史的には、他のジャンルとどんどんごっちゃになってなんだかよくわからなくなり、マジで全く話すことがないのである。

一つのオルタナティブとしてのDancing Ferret系の音楽

ただ、この書き方は一つ問題がある。Trad Gothが好きそうなゴシック・ロック、デスロックや、Cyber Goth層というもっと規模のでかい母体になった集団の好むインダストリアルやEBM、あとヨーロッパ流であれアメリカ流であれ同じくらいの大規模ジャンルとなったゴシックメタルなどの、ゴスにとってのメインカルチャーを基軸にした記述では、ある存在が取りこぼれる。

2000年代くらいに確かにいたわと言われる、1995年~2000年代末くらいまでに存在したレーベル「Dancing Ferret」系のインダストリアルやEBMほど速いBPMではないが、電子楽器などを用いた諸アーティストである。The Crüxshadows、Ego Likeness、ThouShaltNot、The Last Danceあたりの音楽性は、特に固有の名前を与えられていない。

Inside of You, In Spite of You

正直、この辺の2000年代にゴスに流行った曲なんて言うねんという問題は、そもそもこれらのアーティストがレーベルなどの公式サイトや音源の購入で発信が行われていた最後の世代ということもあり、誰も解決していない。また、確かにこのレーベルは、ノイエ・ドイチェ・ヘアテ(Neue Deutsche Härte)の代表的な存在であるEisbrecherがいたり、上述のCorvus CoraxやFaunあたりのいまだに前線にいるネオメディーヴァル勢もいたりと、正直烏合の衆である。

ただ、確かに流行っていたのと、結局この辺の楽曲もダーク・ウェーブというしかないのもあって、このふわっと通常の歴史叙述から抜け落ちている人々をここで触れておく。

2010年代以降―ダーク・ウェーブの復権―

ゴスにとっての今のダーク・ウェーブ

正直、ここからの流れは、ゴシック・ロックの第4波、デスロックの第2次リバイバルと何一つ書くことは変わらない。1980年代的な手つきの楽曲がゴスの間で再燃し、その中にシンセサイザーを用いたバンドが一定数いた、の一言で描き切れる。

ただし、この記事はダーク・ウェーブの記事なので触れておくと、2010年に前後して、1980年代的な手つきで作ったシンセウェーブというジャンルが、はっきりと世界的に形作られたことも後押しした。とてつもなく概説的な話だけすると、2000年代からCollegeなどを率いていたデイビッド・グレリアやKavinskyみたいなフランスの楽曲が、『ドライブ』や『トロン:レガシー』などの映画での使用で知名度が上がり、2010年代後半からThe 1975やThe Weekendなどのメジャーシーンのバンドが明らかにこれっぽい手つきの楽曲をヒットさせたというジャンルである。

College - Teenage Color
Kavinsky - Nightcall (Drive Original Movie Soundtrack) (Official Audio)
The 1975 - Somebody Else (Official Video)
The Weeknd - Blinding Lights (Official Video)

ということで、冒頭の動画にもあった、複数の文脈のこれまでダーク・ウェーブとされた楽曲が、同時並行的にに現在復活した。つまり、伝統的なゴシック・ロックのうちシンセサイザーを用いたものや、1980年代的な暗いシンセポップなど、どことなく懐かしい文法の楽曲を作る若手バンドが出て来たのである。

ここで名前が出てくるのも、Jakuzi、Hante.、Minuit Machine、She Past Away、Drab Majesty、Twin Tribes、Scary Black、Wingtips、Brandy Kills、Fragrance.、Lebanon Hanovere、Molchat Doma、Vox Low、 Whispering Sons、Keluar、Void Vision、Boy Harsherなどであり、ほとんどゴシック・ロックの記事で触れたので、名前だけ触れておくことにする。

Jakuzi - Koca Bir Saçmalık (Official Video)
Minuit Machine - Don't Run From The Fire (Official Video)
She Past Away - Sanrı (Official Video)
Drab Majesty - The Skin And The Glove (Official Video)
Twin Tribes - Heart & Feather (Official Video)
Wingtips - Deaf Pursuit (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
FRAGRANCE. • So Typical

非ゴスにとっての今のダーク・ウェーブ

ただ、このギークやナードなどの一部の集団が1980年代的なヘロヘロした音楽を楽しんでいたらいつの間にかポピュラーカルチャーに回収されたという日本のシティポップでも見た流れは、西洋でも同じだった。

例えば、2000年代末から見られるウィッチ・ハウス(Witch House)という本当にあるのかないのかよくわからない音楽ジャンルがある。ダーク・ウェーブをスクリューした感じの楽曲を適当に括って語ったという、そこまでアーティスト側は関与していない、一種のフカシである(ただ、西側世界と異なりロシア語Wikipediaが異常に詳しく、東側世界では本当に流行っていた可能性がある)。

Crystal Castles "KEROSENE" Official
EYEDRESS - JEALOUS (OFFICIAL VIDEO)
IC3PEAK - Смерти Больше Нет
Purity Ring - Fineshrine
SALEM - Starfall (Official Music Video)
WHITE RING - Nothing Music Video
Kap Bambino - Human Pills (Official Audio)

しかし、上記のウィッチ・ハウスの一連の動画ですでに若干出てきているのだが、触れておく必要があるトピックがある。TikTokなどを中心に流行った、そんなにゴスの文脈でもないのにシンセサイザーを用いたヘロヘロしたサウンドのYouTubeで数億再生されるくらいの楽曲がダーク・ウェーブと扱われる現象である。

このくくりにあるのが、先ほど出したSidewalks and Skeletonsの『Goth』などの他に、例えばMGMT『Little Dark Age』、Mr.Kitty『After Dark』、PASTEL GHOST『DARK BEACH』、Ari Abdu『BABYDOLL』あたりの、Bandcampなどネット上で活動してYouTubeとかでsped up版やもっとslowにしてヘロヘロした感じのアレンジ音源も配っている、楽曲一つのアートトラックの再生数がえぐいことになっている、「あの辺」である(I Monsterの『Who is She?』、The Neighbourhood『Sweater Weather』、VØJ · Narvent『Memory Reboot』、my!lane『This Feeling』といった、「あの辺の曲」と一括して扱える本当に「あの辺」としか言いようがないグループ)。

PASTEL GHOST ~ DARK BEACH

ただ、この中にはThe Cureの楽曲をオマージュしたMareux『The Perfect Girl』などもいるので、ちゃんとゴスの文脈にある楽曲もある。

よって、ぶっちゃけDark waveってやっぱりよくわからないグループでしかないな、ということで落ちをつけたい。

参考文献

ウェブサイト

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